2018年02月18日

異能再訪

円山公園内のギャラリー「eN arts(エンアーツ)」の玄関窓に記された白子勝之個展「exhibition 8」の文字

個展作家との面談と再鑑賞叶う

今日は午後から知己の造形作家と連絡を取り合い、その個展へと向かった。

知己は漆工を中心とした作品を手掛ける白子勝之君。場所は京都市街東部の祇園八坂社裏にある円山公園内のギャラリーである。

白子君は、10年前に参観した展覧会でその才能を知ったが、昨年辺りから特に懇意となり、今回は直に本人から案内状を貰っていた。

実は今月4日に一度参観したのであるが、その時は白子君がおらず話が聞けなかったので、再訪の機会をうかがっていた。

幾度かタイミングが合わなかったが、今日、偶然雪により私の遠出が中止となったため、在廊中の彼との面談を含む再訪が、叶うこととなった。


上掲写真: 祇園円山公園内のギャラリー「eN arts(エンアーツ)」の玄関窓に記された白子勝之個展「exhibition 8」の文字。ここでの8回目の個展に因む題という。即ち8年連続開催で、私は今回が初めての参観。今日は再訪であったが、本人と会うこともあり、新たな期待と緊張が感じられた。


白子勝之個展「exhibition 8」が開かれた円山公園内のギャラリー「eN arts(エンアーツ)」外観
円山公園内の道と敷石通路で接続されるギャラリー「eN arts」

意外な場所の良きギャラリー

自転車で北口から公園内に入り、道沿いに料亭が並ぶ一角に出る。ギャラリーはその並びに溶け込むようにあった。

前回の初訪問時に応対してくれた姉さんによると、元は周辺と同じく料亭で、その廃業後の空き状態を改装し、10年前から営業を始めたとのこと。白子君は開業当初からの馴染みのようである。

この場所にギャラリーがあること自体意外であったが、その質は良いものであった。名勝公園内の為か、外観は旧状維持を指示されたらしいが、内部は画廊の「洋」と京都の「和」を上手く融合して仕上げられていた。

木製の建具や坪庭・茶室等の存在により、俗に「ホワイトキューブ」と呼ばれる無機質なギャラリーの白壁とコンクリの床が、恰も白漆喰や燻しの敷瓦を彷彿させる。また、照明等の機材・設備もいい。


ギャラリー「eN arts」内部
画廊の「洋」と京都の「和」を上手くあわせた「eN arts」の内部

既に勝手知ったるギャラリー内を奥へと進むと、白子君が出迎えてくれた。前回会った時等の話のあと、早速初参観の際に生じた質問等を訊く。

気さくな若者の白子君は、また何でも親身に教えてくれるのであった。

その後、折角なので、本人付き添いで作品の再鑑賞と撮影をさせてもらう。なお、撮影とここでの紹介は本人から許可済である。


白子勝之の漆工造形作品。「exhibition 8」にて
「eN arts」の壁面上に浮かぶ白子作品

影さえ美しい彼岸的漆工作品

さて、気さくな白子君であったが、その作品は実に抜かりないもの。写真は小さいながらも広い壁面で存在感を放つ漆芸作品。


白子勝之の漆工造形作品のアップ
近寄ると、このような感じ。

鋭く流麗な形状だが、輝きと鈍さを併せ持つ漆の特性により、えも言われぬ「柔さ」の如きも備える。それは、触れたいという誘惑も生じさせる。

何物にも似ず、また想像さえ能わぬ形状だが、本人に訊くと正にそれを意図したものだという。

極めて小さな素描を無数に繰り返して生み出された「あるべき形」。専門の漆そのものすら、その要素の一部であり、必須のものではないという。

しかし、奇を衒う訳ではなく、大変美しいものとなっている。そのことは、全体は勿論、あらゆる部分に行き渡って抜かりない。

ただ、純粋な美を追求した果ての、彼岸的造形か。


白子勝之の漆工造形作品のアップ(別角度)
漆芸作品を別角度にて

その美しさは、様々な角度からも感じることが出来た。本人曰く、それは鑑賞者には見えない台座裏にまで施されているという。

そしてまた、その影さえ美しい。


白子勝之の胡粉造形作品。「exhibition 8」にて
壁の上部から流れ下るように掲げられた線的な胡粉作品

想像拒む不可思議な胡粉作品

続いては、比較的大きく、線的な作品。籐材に、膠で溶いた胡粉を塗り重ねて作られたもの。所謂「御所人形」の技法である。

漆工と違い意外だったが、塗り重ね、研ぎ出す作業は同様か。本人曰く、以前人形工房を見学し、それを機に導入することとなった技法という。

この作風は、その姿からして明らかな柔軟さや動きが感じられた。漆工作品と同じく、何物も模っていないが、かなり性格が違う印象を感じる。

訊くと、造形意思を極めた漆工作品の対比的に用意されたものだという。つまり、この作風は表現を追い込まず、ある程度素材感や自然さを残したものであった。

よって、先日観て疑問に感じた、線の微妙な折れや曲(くせ)は、敢えて残されたものともいう。なるほど、解決。白子君が気付かない・直さなかったことは有り得ないので、少々気になっていたのである。


白子勝之の胡粉造形作品アップ
胡粉作品の上部

胡粉作品は、上部で分岐部を成す台座部分(画像中央)から籐線が伸長する形で作られていた。近づいて観ると、台座や各部の表面仕上げに白子君らしさが窺われた。

水の流れや気の動き、果ては植物の蔓そのものを想像しようとするも、全て拒まれてしまう不可思議な造形――。決して、漆工作品の対比用だけでなく、これ自体が独立した作風となることに成功していた。


白子勝之の木片造形作品。「exhibition 8」にて
月下の古代造形さながらの存在感と静謐を湛える木片作品

美への覚悟秘めた木片作品

最後に紹介するのは、小さな木片を削り出した作品で、前述の作品群とは異なり個室に展示されていた。

専用の台と盆に載せられ絶妙な光が当てられたそれは、どこか月下の古代造形を想わせるような存在感と静謐さを湛えていた。


白子勝之の木片造形作品アップ
木片作品のアップ

作品の主体となる小さな木片には、もはや漆も胡粉も見られなかった。ただ、大胆かつ繊細な切削と磨きが施されている。

保護用の油こそ塗布されているらしいが、素材そのままの姿とみてよいだろう。そこには、注意深く露わにされた木目で、塗装とは異なる作者の表現が代演されていた。

そして、ただ美しい――。

その根底には、美のためなら長年研鑽した技や経歴を捨てることも辞さないという、強い覚悟、潔さの如きのものが含まれるようにも感じられた。


床の間に白子作品が飾られた「eN arts」の茶室。個展「exhibition 8」にて
床の間に白子作品が飾られた「eN arts」の茶室

「無用の美」示す興味深い個展

以上、今回の白子展を構成する3作風から1作ずつ紹介した。漆や素材がもつ用途や、造形的意味を超越した興味深い作品展示であった。

昨日思いを馳せた、柳宗悦(やなぎ・むねよし)らの「用の美」を尊ぶ民藝運動とは対極の造形か。いや、それには既に現代美術や前衛工芸があり、それなりの意味付けや、逆にその放棄が行われている。

そうした反動的表現とは異なり白子君は素直に美の表現に挑んでいた。手を無数に動かして構想を練り、同じく形にする――。そこは美術というより工芸的で、案外そうした方法は少なく、新しいものなのかもしれない。

「無用の美」というと少々乱暴か。しかし、普段現代美術作品を欲しいとは思わない私も、白子君の作品なら手元に置いてみたいと素直に感じた。

いやぁ、お世辞抜きで期待以上の個展であった。まだ会期があるので、皆さんにも是非お勧めしたいと思う。


白子勝之個展「exhbition8」

期間 2018/02/02 〜 2018/03/11(会期中の金・土・日のみ開催)
時間 12:00〜18:00
料金 無料
場所 eN art

posted by 藤氏 晴嵐 (Seiran Touji) at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 催事(友人其他)