2019年09月20日

続槍岳独錬行

槍ヶ岳山頂穂先の、最後の梯子上から見た下方の槍ヶ岳山荘や飛騨沢。実は彼方(画像中央上)に麓の起点「新穂高温泉」も見えている

高度1万尺での目覚め

槍ヶ岳単独鍛錬行2日目――。

初日は諸々の無理が祟り、中途で体調不良に陥るという目に遭ったが、今朝は如何であろうか。

日本最高所とされるテント場(標高3070m前後)の低温と風に晒されるも一応前夜は比較的早く寝ることが叶い、それなりに休むことは出来た。


上掲写真 正にアルプス的景観。写真で見ると今更ながら凄い高度感があるが、詳細は、また後ほど……。


槍ヶ岳山荘付近から見た、東方の槍沢(上高地源流)や大天井岳(おてんしょうだけ。中央左)方面と、彼方で光る日の出前の空

今朝は5時に起床し、5時半過ぎに昇るという朝日を見る予定であった。風や寒さが残る天幕外に出ると、既に日の出前の薄明が広がっていた。

写真は、東の槍沢(上高地源流)や大天井岳(おてんしょうだけ。中央左。2922m)方面を眺めたもの。将に、地平下に迫る朝日が空を焼き始めている。


槍ヶ岳山荘のテント場から見た、日の出前の薄明に佇む大喰岳

今日最初の予定、大喰岳へ

日の出観察はテント場南方に対面する、大喰岳(おおばみだけ。標高3101m)山上にて行う予定であった。わざわざそこに移動するのは、大喰岳に遮られた穂高連峰等の南方も隈なく望めるため。

写真はテント場から見た大喰岳。既に山頂に人が見え、同様の観察を図っているようである。また、山上への道上にも灯りを点した歩行者が見えたが、こちらは早立ちの縦走者か……。

薄明に因るコントラストの低さの所為か、全てが現実感に乏しい、ミニチュア的・箱庭的に見える、一種不可思議な光景であった。


日の出前の薄明に佇む槍ヶ岳穂先
こちらは同じく薄明に佇む槍ヶ岳の穂先。大喰岳同様ライトを点した登頂者が山上に見えた


日の出前の大喰岳山頂と、そこにある積石や標識
大喰岳山頂。明治後期の記録によると、その名は、獣がこの山に餌をあさりに来るという、地元猟師の認識が由来という

直線距離約半km、途中の鞍部「飛騨乗越」との高低差も100m程なので、山杖(ストック)とカメラのみ持って大喰岳へ向かう。ところが、一先ず急坂を下るだけで、すぐ息が苦しくなった。

やはりまだ体調は回復していないようである。目覚めの麻痺に反省しつつ、無理せず慎重に進み、やがて、なだらかなその山頂に達した。


大喰岳山頂から見た、日の出前の薄明に佇む穂高連峰

噂通り、大喰の頂からは南方の穂高山塊を始め、360度の壮観が得られた。写真は日の出前の薄明に佇む穂高連峰。岳人憧れの鋭い稜線が連なる。


大喰岳山頂から見た、日の出前の雲海に浮かぶ八ヶ岳
同じく大喰岳山頂から見た、日の出前の雲海に浮かぶ八ヶ岳(最高点2899m)


大喰岳山頂から見た、日の出前の雲海に浮かぶ富士山
また同様に富士山も(3776m。中央奥)


北アルプスの大喰岳山頂から見た日の出
そして朝日が現れる。しかし残念ながら上空の雲に押さえられ、期待した各山の赤染まり(モルゲンロート)は見られなかった。これも自然の事ゆえ致し方あるまい。昨日夕陽に染まる槍ヶ岳は見れたので、良しとする


北アルプス・大喰岳山頂から見た、日の出直後の槍ヶ岳と槍ヶ岳山荘及びテント場(左山上)
日の出となるも、雲により赤く染まらなかった槍ヶ岳と槍ヶ岳山荘及びテント場(左山上)。画像でも山荘下の斜面にテントが見えるが、改めて凄い場所で寝たことを知る。まあ、写真で見るほど現地は急ではないが……


槍ヶ岳山荘辺りから見た、日の出後の笠ヶ岳(左手前)や白山(中央奥)
こちらは同じく日の出後の西方は笠ヶ岳(2897m。左)や白山(2702m。中央奥)。機会あればこれらの山にも行ってみたい(白山は既登)


北アルプス・大喰岳山頂からの帰りの路端で見た、「高山の小さな秋」
大喰岳山頂からの帰路に見つけた「高山の小さな秋」。そういえば、麓から山上まで、色的な秋の気配を殆ど感じなかった。通常ならもう方々で紅葉が始まっている筈。暑さの所為で遅れているのであろうか


槍の肩から見上げた槍ヶ岳頂部と、左下から右上に続く登頂路

今回山行の本題へ

モルゲンロートの観察と撮影を諦め、大喰岳の頂からテントに戻った。その後、珈琲を沸かし、朝食を摂るなどして暫し寛ぐ。

そして、7時過ぎ、必要最小限の荷物を持ち、槍ヶ岳山荘へ向かった。山荘の番台で借りた登山用硬帽(ヘルメット)を被り向かったのは槍の穂先。そう、今回の山行の本題であった。

大喰岳で無駄な体力を使ったが、逆に不調ながらも無理をしなければ動けることが判り、登頂を決断。写真にも見える、槍の肩部分の左下から右上に続く登頂路を進む。


槍ヶ岳の穂先を登る途中に見た、頂部に続く急峻な登頂ルート
槍ヶ岳の穂先を登る途中に見た、頂部に続く急峻な登頂ルート


急峻な岩場に続く、槍ヶ岳穂先の登頂ルート
この様なところを上がっていく。矢印で示されたルートは上下2筋あり、渋滞を避ける工夫が窺われた


槍ヶ岳の穂先に付けられた、山頂への最後の鉄梯子
幾つかの梯子場を経て現れた槍ヶ岳登頂路最後の長梯子。高さ10m程か。以前同山に接近する際に通過した東鎌尾根の長大な梯子の方が緊張した


槍ヶ岳山頂の鉄梯子上から見た、槍ヶ岳山荘やテント場、そしてその下方の槍沢圏谷

念願の槍ヶ岳山頂着

そして、無事槍ヶ岳山頂に着く。写真は最後の鉄梯子上から見た、穂先下と槍沢圏谷である。物凄い傾斜・高度感に思われるが、三点確保を基本として慎重に進めば特に危険を感じるような場所はなかった。

槍の肩からの時間は15分程。朝のため空いていたが、前にいたおばちゃんの進行を待ったため、実際は10分足らずで登れるように感じられた。ただ、盆や連休の混雑時には数時間待ちの列が出来ることもあるという。

なお、冒頭に掲げた写真は、正に槍ヶ岳山頂の梯子上から見た、槍ヶ岳山荘とテント場、そして、その下方に続く飛騨沢であった。実は彼方(画像中央上)に麓の起点「新穂高温泉」も見えている。

即ち、昨日悪戦苦闘した、ほぼ全ての行程を収める眺めであった。


槍ヶ岳山頂から見た、南方の大喰岳や南岳に続く穂高山塊(中央奥)
槍ヶ岳山頂から見た、南方の大喰岳や南岳に続く、穂高山塊(中央奥)


槍ヶ岳山頂北端に設置された祠
槍ヶ岳山頂北端に置かれた祠

時間の所為か、雲の所為か、槍ヶ岳山頂には私を含め3組しかおらず、祠に参拝したあと、互いに記念撮影を手伝うなどした。


槍ヶ岳山頂にある祠越しの北方彼方に見えた立山と剱岳
そして、祠越しの北方彼方に彼の立山が見えた(中央奥)。先々週そこからここを見た際の真逆の体験。一種御礼参りの心境か。因みに立山の頂部三峰のうち中央が最高峰にも拘らず右側が高く見えるのは、後ろの剱岳が被っているため。即ち、ここでは立山と剱岳が合わさった姿で見えている


飛騨沢ルートから見た、右上に聳える槍ヶ岳を頂点とする飛騨沢の景

撤収及び下山

体調不良のため一時は断念することも考えた槍ヶ岳登頂。無事それを果たした後は、急ぎテントに戻り、撤収を行った。体調のため、また風のため、手間取ったが、何とか片付け、9時前に下山を始めた。

ただ撤収時に熊鈴を落としたことに気づく。恐らく昨日不調後に無数にとった休息中に落としたと思われた。地味ながらこれは少々手痛い出来事となった。それは、その鈴が自身の手製であり、20年来の愛用品だったことによる。無着色の厚手の牛革に、大陸製の怪獣面ある真鍮鈴が2個付くものであった。

さて、下りはテント場から近い、飛騨乗越を飛騨沢に下るルート。写真は右上に聳える槍ヶ岳を頂点とする飛騨沢の景。槍ヶ岳の下(左)には昨日喘いだ千丈沢乗越に続く尾根が見える。雲も晴れ天気が良くなってきた。失くした鈴も、この景色内の何処かにあるのかもしれない。


槍ヶ岳右俣(飛騨沢)登山道にある滝谷の河原と、その背後に連なる穂高北方・南岳(3032m)の西尾根

下山は登坂の負荷がないため止まることなく歩くことが出来たが、珍しく足が痛い。それは脚全体に言えたが、特に爪先が酷かった。後で見ると、爪裏が内出血するほどであった。

同じ靴で今回以上の重荷を背負い縦走した時にも起らなかった症状。何やら初心者に戻った気分にさえなった。長年愛用の革靴が合わなくなってきたのか、それとも高度障害か何かの浮腫みによるのか……。

下山路は、やがて千丈沢乗越分岐を経て、昨日と同じ飛騨沢・右俣のルートに合した。あとは元来た道をひたに下るだけである。写真は途中通過した滝谷の河原と、その背後に連なる穂高北方の南岳(3032m)の西尾根。

実にアルプスらしい眺め。簡単には来られない場所なので味わいつつ下る。


上方に奥穂高岳(3190m)が見える、槍ヶ岳右俣(飛騨沢)登山道途中にある白出沢の河原
そして上方に奥穂高岳(3190m)が見える白出沢の河原まで下る。ここで山道は終り、あとは林道を下るだけとなるが、その距離は長く、また京都への車行も長いので、少し長めの昼食休憩をとった。ここでも、名残り惜しい高山景を堪能


新穂高温泉奥の路上から見た、北方の笠ヶ岳(2897m)方面の高地

下山。さらば高嶺たち

足の苦痛に耐え、長い林道歩きを休まず続け、やがて新穂高温泉へと下った。下山完了である。起点の「新穂高登山指導センター」への到着は、奇しくも登りと同じ14時45分頃であった。

写真は林道終点辺りから見た、北方の笠ヶ岳(2897m)方面。主峰は雲に隠れ、その手前の標高2500m辺りの高みが見えている。いやはや、方々凄いところである。さすがは日本の屋根、北アルプス。

さらば、誇り高き高嶺たち。また見(まみ)える日まで……。


平日にもかかわらず満車状態の新穂高温泉奥の有料駐車場
平日にもかかわらず満車状態の新穂高温泉奥の有料駐車場

好みの温泉に寄れぬも無事帰京

そして車に戻り、早々に新穂高を後にした。本来なら、20年振りに自身の評価が高い川辺の温泉に寄りたかったが、槍の穂先への登頂が今朝となり、結果下山が遅れたので叶わなかった。

体調のこともあり、また大変疲れていたので、慎重に運転したが、意外と休憩を多くとる必要は感じなかった。途中、濃尾平野でカーナビゲーション(スマホナビ)に長時間下道と別の高速路に誘導されて案じたが、結果的に渋滞を避けられ、標準的時間で帰京することが出来た。

こうして終った今回の槍ヶ岳山行。思わぬ不調に見舞われたが、数年来の気掛かりであった穂先登頂を無事果すことが出来た。無理をしたことへの反省も生じたが、個人的に鍛錬・研修として良い経験が得られたと思う。


「槍ヶ岳単独鍛錬行」初日の記事はこちら

posted by 藤氏 晴嵐 (Seiran Touji) at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 山会