2020年03月26日

東山壊乱其肆

夕陽を受ける京都・大豊神社の枝垂桜。2020年3月23日撮影

安祥寺山破壊・土器発見その後

昨年の12月14日同29日に報告した、京都東山・安祥寺山(あんしょうじやま。大文字山南隣)における山体破壊とその現場での土器発見の件。

1月11日の記事で京都市の文化財保護課から現地調査の連絡を受けたことを報告したが、その後連絡が絶えた状態であった。

前の連絡の際、機材持ちで現場に入る際の効率的な路程教示も乞われたので、すぐに車輌と徒歩双方による詳細な接近法を記して返信したが全く音沙汰無し。元より、この地で調査を続けてきた専門部署が私に行き方を訊くのもおかしな話だが、更なる破壊の恐れから一先ず最優先で協力した。

色々と多忙であることは解るが、自ら訊ね早急詳細な返答をもらいながら、一語も返せないとは如何なものか。これでは、史学の徒、東洋の文官として情けなく思われる。昨年、京都市内で国内最古級とされる町家が解体された際、当主が市との交渉に失望したとの表明があったが、少々それに同情を覚える気分にさせられた。

実は、昨年末から同様に連絡を取っていた工事施主の林野庁から、今回の施工についての説明面談の申し入れがきていた。そのため、その席で現地山域の価値を示すものとしても、保護課の調査結果が待たれるところとなっていたのである。

為に仕方なくこちらから保護課へ連絡を入れれば、担当者から返答があった。暫く休暇をとっていたという。事情や時機による休暇は仕方ないが、2カ月以上も経て問われる前にどこかの段階で「一語」くらい返せなかったのであろうか。自分の様な規格外の人間があまり言いたくないが、方々で社会人や大人としての対応が劣化してきている一例のように感じられた。


上掲写真 京都市街東部にある大豊神社の枝垂桜。夕陽を受けた桜花がいつもとはまた違った美麗さを見せる。ここも東山山麓なので、もし同山域で山火事等が起れば犠牲となりかねない。2020年3月23日撮影。


昨年2019年12月29日に安祥寺山北尾根の破壊現場にて発見した古代の土師器と思われる土器片
昨年12月29日に安祥寺山北尾根の破壊現場にて発見した「土師器(はじき)」とみられる古代の土器片。左端に玉縁らしき細工がみえる

面談当日の急報

さて、こうして保護課の調査を待つも進展がなく、4月の官庁異動も迫っていたため、今夕、林野庁との面談を行うこととなった。ところが、今朝保護課から連絡が入り、山城と山岳寺院専門の調査員による現地調査により、私が示していた安祥寺山北尾根の平坦地が遺構として認められ、埋蔵文化財包蔵地(遺跡地区)が拡大されることとなったという。

偶然ながらこれには少々驚かされた。当てに出来なくなっていた保護課の件が急転し、望む保護地拡大が果たされたのである。既に切られた北尾根鞍部や平坦地側面については残念な限りだが、更なる破壊を抑える進歩的朗報となった。また、林野庁に対する説明・説得の良い材料ともなった。

林野庁支所へ

そして夕方から林野庁へと出向く。同庁の支所で、現場山域を管掌し、今回の施工を主導した市内の森林管理事務所である。先にそこの所長さんから丁寧な説明文をメールでもらっていたが、更に話を聞くために今日の面談を約束していたのであった。

場所は府庁等の公館が集まる市街中心部。近年改築したという真新しい近畿農政局の庁舎内にあった。守衛2人と保安改札で護られた受付で手続きを済ませ、カードをかざしてゲートを開け館内に入る。業務柄、府や市の庁舎に比べ警備が厳重なのか。

事務所自体は改札のすぐ傍にあり、扉の前に立つとすぐに所長氏自ら出迎えてくれた。こちらは玄関の厳重さとは対照的に親身である。私も丁重に機会の提供に感謝し、面談場に通された。

面談場では所長の他、説明の為に事務方と技官の責任者計3人で対応してもらうこととなった。私は史学科出の一市民で、地元で史跡や自然観察を有志・個人で行う者として臨席。先ずは私が事前に送付しておいた書類の質問を述べ、その後、所長さんが回答を含めた見解詳細を説明してくれた。

その主な質問内容と回答は以下の通り。

1. 現場に投棄された吸殻と空缶の件1月11日の記事参照) 煙草の吸殻と空缶の投棄場所は、一般ハイカー等が通行や休憩をする地点とは思い難い「作業区域内」にあったと返答したが、これに対する返答はどうなったのか。麓に住む人間として山火事等の危険があり看過し難い(先にこの件を先方へ伝えており「指定場所以外で喫煙することはありえず、空缶投棄もありえない」との調査結果を得ていた)。

回答 所員による現地再調査にて指摘の通り吸殻と空缶を発見した。今回は作業者の供述を信じざるを得ないが、今後は本件を一例に、現場規則の遵守を徹底させたい。

2. 作業現場の施工法1月11日の記事参照) 作業道開削による谷の閉塞・滞水や、表土も浚うような皆伐による土石流等の二次災害の恐れについての質問に関する「地質・地形を調査・計算の上で安全施工しているのか」という質問への返答を頂きたい。

回答 基本的に現場施工は委託業者に任せている(調査や計算はしていない)。指摘の箇所は台風倒木が酷かったため、止む得ず緊急的に皆伐による整理と再植林を行った。ただ施工終了後も継続して現地を監視し、崩落等に備える。また、指摘の滞水箇所については再度現地にて確認したい。

3. 作業現場の原状回復3月15日の記事参照) 作業終了翌月の令和2年3月15日の段階で原状回復工事が行われていないが、計画はないのか。また、左京側からの既存新林道末端に設けられた伐採木置場跡には未だ伐採木の残骸が多量に放置されいるが、回収されないのか。

回答 作業道はその後の林内作業等のため保持する。ただ、恒久的な林道ではなく、擁壁等は設けず、やがて自然に還る扱いとする。勿論それによる崩落の危険等には十分注意する。安祥寺山北谷を埋めるように通された作業道には水の流れ道を切った。また、伐採木置場の残置物の件は、管轄地外の借地のため、元からあった切株等(施工前写真を提示)を谷側に残した(しかし写真の残骸より多かったと私が指摘すると、一度現場を確認して対処したいと返答)。

4. 安祥寺山北尾根等の自然林再生12月14日の記事及び1月11日の記事参照) 安祥寺山と大文字山を繋ぐ北尾根西面は以前豊かな自然林で覆われていたが、今回の整理により伐採及び作業道による地盤破壊が行われた。今後ここへの対処はどうするのか。

回答 既に通した作業道については質問3への回答通り。ただ、その開通に伴い伐採された箇所には自然林を再生させる予定。根本、安祥寺山国有林を含む都市近郊の森林はコスト的に生産利益が望めず、林業経営を目的としない、より自然な混交林への転換を図っている。当国有林についてもその最中であり、今後山内全域に敷衍する予定である。

5. 重機使用不可欠への疑問 以前「風倒木の処理等の作業を安全かつ着実に実施する上で、重機の使用は不可欠」との返答をもらったが、今回のように山腹や尾根に細かく道を通すような施工は、ごく近年しか見受けられないものだと思われる。それ以前には少ない主道のみで対処出来ていたものが、どうして不可能となったのか。工事規模・予算的には更に環境負荷が少ない方法も可能なようにも思われる。

回答 実は林業は全産業のなかで突出して労災事故が多い(資料のグラフ等を提示)。近年少しずつ改善されつつあるが、それでも死傷者が多い状況なので、それを改善するため極力伐採・整理現場に人を入れず、重機等の機械による作業に転換したい。それ故、より現場に機械が接近し易い作業道が必要となる。また、現状他の方法より、作業道を通すこの方法が最もコスト的にも優れているという事情もある。

6. 施工への見解及び今後の展望詳細 今回の施工、またその他所轄における自然・歴史等の文化価値棄損に対する見解、及び今後の御庁・御事務所の展望が知りたい。

回答 我々も歴史関係を含めた山林の文化価値を十分認識しており、その保全を重視している。そのため、施工前には文化財保護課と協議し、施工中はその立会等を受け入れている。ただ、健全かつ安全な山林を恒久的に育て、維持するという主だった役割もある。現在林野庁では、山林を「山地災害防止タイプ」「自然維持タイプ」「森林空間利用タイプ」「快適環境形成タイプ」「水源涵養タイプ」という5つの機能類型に区分して、それぞれの目的に応じた施業を実施している。そういった施策のなかで、景観等も含む文化的価値を保全・活用してゆくつもりである。


以上、こちらの質問に対し各氏交えて答えてもらいつつ、所長氏が代表して事務所の立場や見解を説明してくれた。

投棄の件は事実を認めつつ、これ以上の追求は困難なので以後の周知や対策を強化するという形に。具体的には次の入札から行うという。また崩落危険等の件では、責任重大なので常に全方向に気を遣い、苦慮している旨を率直に語ってもらった。

そして今回の本題でもある重機使用や作業道開削の件は多大な死傷者対策という深刻で切ない事情も知った。作業道の原状回復については他所から土を入れることや改変の履歴が判らなくなるという問題も浮かび上がる。

ただ、林内が不自然な営利植林から、より自然な天然林へと転換が図られていることは喜ばしいことであった。山林利用の転換期でもあり、林野庁としても今後の管理等々で色々模索していることも窺えた。


作業道により切られた安祥寺山北尾根鞍部と無限軌道運搬車。2019年11月23日撮影
作業道により切られた安祥寺山北尾根鞍部と作業用無限軌道車。土器を見つけた小平坦地と平安後期の安祥寺山経塚遺跡の間にあり、山科からの主路古道の接続箇所かつ直下の谷から平安前期の瓦が見つかる要所ながら遺跡指定地ではなかった。そのため無造作に掘削されたと思っていたが、意外にも保護課から8名程の人員が立ち会い慎重に作業が行われたという

林野庁への要望・建議

質問への回答と説明を受けたのち、改めてこちらからの要望も述べておいた。これも、事前送付した一文に記していたが、補足を交えつつ……。

1. 安祥寺山国有林を含む山域は平安京至近という場所柄、山岳寺院や城塞、古道等の遺跡が濃密に存在している。それらには未調査のものも多く、また公が未知の遺跡も数多く存在する。山林整理の重要性は理解するが、他に比して極めて文化価値が高い山域のため、今後地形改変を伴う施工は止めて頂きたい。

補足・建議 現状、作業道開削が安全面・コスト的に最良の方法とのことを今日聞いたので、早急なる代替法の開発や採用をお願いしたい。建議としては、コストや環境負荷が少ないモノレールを使用し、作業に使用しない時は民間に貸し出すなどして歴史・自然観光用と併用するのはどうか。

2. 安祥寺山国有林を含むこの山域は自然観察と共に古代からの人文痕跡も観察出来る豊かでかけがえのない場所、生きた教材でもある。21世紀のつい最近まで残されていた古代・中世そのままの姿を次代へと引継いで頂きたい。人との関わりが深い山は単なる営林・治山治水用の土壌ではない。

補足・建議 現在行われている林野庁の施策や認識より更に広く山林の価値を捉え直し、より複合的な保存・活用をお願いしたい。

3. 既に城塞遺構や遺物散布地、古道が破壊され取り返しのつかない状況になっている。また、切られた急斜が崩壊を起こし、更なる地形変化・遺跡破壊の危険性もうかがえるので、改変箇所の原状回復を望む。特に、切られた尾根(歴史的通路・自然散策路)や途絶した古道(特に安祥寺山北谷や伐採木置場付近の古道)の原状回復を切にお願いしたい。

補足・建議 原状回復については、質問3の回答にある通り現状叶わず、また他所から土を入れることや改変履歴が判らなくなるという問題も浮かび上がった。つまり、現地環境的に、やはり取り返しのつかない状況となったので、改めて今後の施工や工法を考慮してもらいたい。また、安祥寺川の主要水源である安祥寺山北谷が作業道として埋められたことに対し、歴史遺産(平安前期の瓦が発見されている遺跡指定地)や水源価値・動植物生息地棄損に遺憾の意を表する。そして、同谷から北尾根までに存在した山科からの主路古道が消失してしまったことの重大性(学術的・散策路としての価値)を改めてここに告げる。

4. 山火事の危険や他の作業者の健康・環境汚染(山は水源地)に関わるので、施工現場での喫煙は一切禁じて頂きたい。

補足・建議 元より、被害甚大となり易い山火事に注意すべき山中作業で火を使う「嗜好品」が許されること自体おかしく、時代錯誤的状況である。

5. 以上、地元京都はおろか、日本の宝でもあるこれら人文山域を、どうか次世代の為にも慎重かつ大切に扱って頂きたい。森は造林によって回復させることが出来るが、文化痕跡は破壊されると二度と元には戻せない。


面談終了。良き方向に進むよう……

森林管理事務所を通して林野庁に述べた要望は以上の通り。場合により東京の本庁にも直接提出しようかとも思っている。

1時間以上に渡り続いた面談はこれにて終了となった。同事務所の対応は大変真摯であり、好感が持てるものであった。

しかし、肝心の重機使用による地表攪乱が今後も行われる可能性があることが判り、危機感も高まった。ただ、その裏には事故減少を図る切実な事情も明かされ、それに対する意志や行為としては共感・理解出来た。

元より、この件に関しては双方主張が平行線を辿ることを予想しており、実際それに近い結果となった。ただ、そのような状況でも、法令や役所間の遣り取りでは望めない、将来へ好影響を与えるべき細やかな説明をすることが出来たと思う。

特に、古道の存在と重要性を認識してもらったことは一つの成果であった。実際、事務所の人々は遺跡に対する認識はあっても、古道に対する認識はなかったという。

古道は遺跡研究の重要な手がかりともなり、それ自体が遺構であり遺物を秘める可能性を持っている。また人の身の丈にあった規格で古くから定着している通路のため、比較的安全で歩き易いという実用性も有している。

さて、臨席3氏皆さんに面談の礼と今後の善処をお願いして、事務所を後にした。そして、今朝届いた遺跡地区拡大の件共々、万事良き方向に進むことを願いつつ、陽の落ちた家路に就いたのである。

posted by 藤氏 晴嵐 (Seiran Touji) at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 調査・研究