
「完コピ」吊金具製作
先日の晩より、何やら金具を作製。
銅の丸棒を曲げただけのものだが、太さがあり硬かった為、結構な時間を費やされた。
写真のものがそれ。昨今「S字フック」「Sカン」などとも呼ばれる、吊金具である。右端の色の濃いものが手本というかオリジナルで、その他は全て今回それを模して製作したもの。
本来は、全数分のオリジナルが存在したが、1個を残して失われていた為の補全であった。
古い物だったので、独特の形状をしており、それを含めて完全に複製してみた。俗にいう「完コピ」(完全コピーの略)である。
仕上げに炭火処理を施すとほぼ同じ色合いに近付けるかとも思うが、キリがないのでここくらいで止めておく(笑)。
しかし、何故、気合を入れて、このようなものを作ったのか……。

入手した御簾。京間サイズ4枚一式の1.5間用で、恐らくは戦前製。麻縁なので一般向けだと思われるが、全面一枚板の木箱入りである。何と1本200円の破格入手!金具の材料費の方が高くつくという結果に(笑)
古き良き夏建具入手
面倒を顧みず補全利用
その訳は、ある古式の夏建具一式の為――。それは、写真の御簾であった。
存知の通り、御簾は巻上げが可能で、その際、紐を掛け置く吊具が使われる。今回製作した金具は正にそれであった。
実は、先月近所のバザーで偶然この御簾を入手して、早速、夏支度に利用しようと思ったが、絹糸の劣化の所為か、吊輪が失われていた。
そこで、今回御簾の実用に当り、必要に駆られ、これらの製作・取付となった。
格安で手に入ったが、物の状態は良く、元の造りも素晴らしい。また大事に保管され、使われた痕跡等も窺えた。
一見馬鹿げたような、今回の補全利用――。
実は、そんな作者と所有者の熱意・誠意に応じて、齎された結果でもあった。

御簾に補作した吊金具を取付け、実際に使用する。吊輪の糸は元は絹製の細組紐であったが、劣化切断していた為、在庫の皮革用亜麻糸で同じく補作した

この様に、巻上げの紐を吊輪に掛けて、状態を保持する。「鉤」(こ)と呼ばれる、鉤型(かぎがた)の金具により保持するものもあるが、この御簾はより簡易な(?)この方式が採用されていた。だが、その他の造りに抜かりはない

拙宅に取付けられた御簾の正面。本来は巻いた側を後方にするようだが、他の建具との干渉に因り、一先ずこの形に
古い御簾の復生
夏の涼演出に期待
さて、無事御簾を取付けることが叶い、記念の一写――。
予想通り、サイズも雰囲気も、わが古家に適合。恐らくは、近所の同世代(戦前築)の町家から出たものであろう。
とまれ、こうして古い御簾は、拙宅にて復(また)新しい「生」を刻むこととなった。細やかながら、めでたい限り。
来るべき、夏の涼の演出に期待したい。