
強大台風接近翌日に
恒例行事、秋の野営会(やえいかい)――。
京都市及び近隣在住の私や有志が気軽に行けて、昔ながらの本格的飯盒炊爨(はんごうすいさん。薪による野外調理)のキャンプを行う催しだが、今回は強力巨大な台風19号の接近と重なり、その開催が危ぶまれた。
予報進路により近畿直撃の可能性が低いことは早くから判っていたが、影響が避け難い最接近と開催初日が重なってしまうことが確実となった。その為、直前となったが、参加者と協議し、1日ずらした今日開催となった。
幸い3連休だったため皆の予定変更が叶ったが、参加を楽しみにしていた1人が所用と被り、参加不能となった。残念無念。天候ばかりは致し方ないことだが、大変申し訳なく思われた。また何かで穴埋めしたいと思う。
さて、直撃こそしなかったが、強大台風が通過した直後に山行を実施するのは無謀かと思われるかもしれない。事実、前夜結構な量の雨が降り、今朝もまた危うい雲行きであった。
しかし然程風が強くなかったことや、降雨の程度、そして回復基調という気象予報等を勘案し開催を決めた。また、滋賀県・湖南アルプス太神(たなかみ)山地にある野営地特有の、緩やかな地形や集水面積の狭さ、古代以来の人為荒廃により洗い尽された地表等の事情も決行の加点とした。
上掲写真 山上の野営地へ向かうための最初の渡渉地点。本来なら対岸の登山道に続く飛石が川面から覗くが(以前の野営会画像参照)、案の定、増水で没している。諦めて裸足となって渡る人や、無理して渡り靴を水没させる人が出るなど、乗っけからの難儀となった。

風化花崗岩による痩せた地表を流れ下る、増水した湖南アルプスの沢の水(以前の野営会画像参照)
目算的中
最初の渡河の難関を過ぎ、登山道を進む。つい先程まで小雨が残っていたこともあり、地面・草木の全てが濡れている。転倒の危険性が高いため、注意を促しながら登った。
道は最初の渡渉沢より小さな支流沢沿い山道だが、その沢もやはり増水しており、途中幾度もある渡渉箇所でまた靴を濡らす人が続出した。
それでも、私に限っては靴なかを濡らすことなく進めたので、増水の規模としては大したものではなかった。決行の読みは当たったのである。
実は本来なら山行は中止すべき条件であった。しかし、前述したこの山地特有の事情により助けられた。
古の建材調達由来による山の荒廃で、湖南アルプスは保水力の弱い、風化花崗岩地表が多い山域となっている。つまり雨が降っている最中は多くの水が沢に集中するが、一旦止むとその分、速やかに排出されるのである。
これが、比較的保水力の高い普通の山域だと、増水・濁流が長く続き、通行困難や危険性が高まるのであった。
事前に増水を心配する声が参加者からも寄せられていたが、この判断により開催を決めた。勿論、前夜の雨量・降り方が尋常ではない場合は、躊躇なく中止するつもりでいたのである。

山上野営地にて
参加者各々、足下に悩まされるも、やがて山上の野営地着。未だ小雨でも降りそうな空模様だったため、先にテントを張ることとした。
写真は設営後の様子。先ずは一安心。これで少々の風雨が来ても問題なし。また、元は初心者だった人の設営が手早くなり、慣れてきたことも喜ばしい。

急ぎテントを設営したあとは、昼食を兼ねて少々休息し、その後、竃や洗い場等の設備構築を行った。言わば野営のインフラ整備である。
皆、気心の知れた面子なので、それぞれ自発的に動いて、速やかにインフラを整えることが出来た。写真は、早速竃で火を熾して湯を沸かし、その後、夕食や夜の冷えに備え、濡れた薪を乾かす様子。
全てが濡れていたため、いつもより火熾しに時間がかかったが、それでも、新聞少々を一度使っただけで就寝まで火を維持することが出来た。これも、恒例故の慣れであろう。

最初の飲料は大陸風味
その後、予報通り雨もなく、各々寛いだり、水晶採りに興じたりした。写真は、今季野営会最初の現地製作飲料。私が持参した材料(一部不足分を友人が補填)で作った、甘茶「三泡台(さんぽうたい)」である。
八宝茶とも呼ばれるもので、大陸西北名産の干果(棗・龍眼<桂円>・杏・葡萄・枸杞)や氷砂糖、そして南方の茶葉(春尖)を入れて湯で煎じたものであった。
底に甘味を残しつつ湯を継ぎ足し長く味わう飲料で、回族(所謂チャイニーズ・ムスリム)を中心として、チベットやモンゴル等の周辺民族にも愛されている。恐らくは酒が禁じられた回教徒の交流用に発達したものか。
私も、その昔、大陸奥深くで、その存在を知って以来好物となり、材料を備えて、こうして偶に楽しんでいる。なお、材料産地も流行地も乾燥地帯が多いので、日本ではそれと気候の似た春秋の頃に飲むのが美味しい。
今回、参加者の1人に中央アジア(西トルキスタン。旧ソ連領)出身者がいたが、故郷には無いものながら、風味が合うのか、喜んでもらえた。

野営地上空に昇ってきた秋の満月と、月光に照らされる森や砂河原
満月の秋宵に語らい、日を終える
やがて、夕方となり、手分けして食事の準備を行い、滞りなく夕食の時間を迎えることが出来た。
一品ずつ見ると簡素だが煮物や焼物等の様々な料理があり、贅沢な時を過ごせた。特に炊きたての新米白飯が美味で、薪炊爨の格別を再確認した。
その後、各自持寄りの酒類等を味わいつつ、炉端での語らいの時に。漸く雲が晴れたのか、空には野営会では久方ぶりの満月も上がってきた。そして、遠近(おちこち)に聞こえる鹿の鳴き声……。
秋宵らしい、落ち着いた雰囲気のなか、やがて、早めに寝る遠方参加の人も。そして、夜も更け、個人的小焚火を楽しむ人が火の始末したところで、皆就寝することとした。
幸い、今日は予報通り、朝以上に天候が悪化せず、また警戒していた吹き返しの風もなかった。
ただ、夜半少々霧雨があったので、昼間試験した通り、竃上にブルーシート(灰色だが)を利用したタープ(天幕)を張り、竃や薪の濡れに備えたのである。
野営会2日目の様子はこちら