
名の無き名月
陽が沈み、辺りがすっかり暗くなった頃、用のため自転車で出掛けた。
暗い南禅寺境内に続く公道を抜けゆくと、寺の要部と外を隔てる中門前にて東山山上に現れた月を目にした。
そう、今日は満月であった。ひとけのない境内只中で独り立ち止まり、暫し眺める。写真の通り雲が多いが、冷涼・澄んだ秋の気に映えて美しい。
そういえば、この頃の満月には何故か名前がない。先月の「十五夜」に対する名称のことである。丁度、今年の今日は旧暦9月15日なので、秋二度目の「後十五夜」等としても良さそうであるが……。
ただ、2日前の旧13日は、所謂「十三夜」として、昔から「栗名月」や「豆名月」等と呼ばれ尊重されている。満月でもないにも拘らず不思議な気もするが、元来農事に由来することらしいので仕方あるまいか。
しかし、北米でこの満月を「ハンターズムーン」と呼ぶことを最近諸媒体で紹介されるようになった。なんでも、この頃を肥え太った秋の獣を狩る適期とした先住民文化が由来という。ひょっとすると、そんな好機で夜も明るい為、夜行性動物を狩り易いという意味もあるかもしれない。
とまれ、そのカナ名は「十五夜」等とは語感も地理も遠く隔たる異郷の名称。昔から自然現象に敏感な日本に名が無いのは至極残念に思われた。
目立つ存在で、まだ月見には良い季節なので、恐らくは古い時代や地方には名があったと思われるのだが、如何であろうか。