
闇に現る無情の異形
今日夕方――、といっても、この時季は夜同様に暗いが、書斎で作業中に少々外が騒がしいことに気づいた。
遮光幕がある窓越しなので見た訳ではないが、どうやら向かいの家の露台でその家の子供が外を眺めているようである。
日没後は気温も下がり、窓を開けて外を観る状況ではなかったが、何事であろう。そんな、いつもと異なる動きに怪訝を感じながら、程なく……。
そう、今日は珍しい月食が観られる日であった――。
こうして、特別な天文現象の事を漸く思い出したが、時は既に18時20分。食の最大は18時3分なので、かなり過ぎてしまった。
それでも、すぐにカメラを持ち、外にて撮影したのが、上掲の京都東山、即ち大文字山山上で鈍く光る異形の満月であった。
前情報通り、それは大半を地球の影に覆われた赤黒い月であったが、食を受けない場所が膨張して見えるため、意外と食の最大状態と変わらないように感じられた。
なお、今日の月食は、所謂皆既ではなく、部分月食。ただ、97.8%が影に入るという、「ほぼ皆既」の部分食で、天文界では「大変深い」と表現される珍しい月食であった。
意外にもそうした深い部分月食は皆既月食より稀少で、国立天文台によると、皆既月食が今年5月と来年5月にあるよう数年毎に現れるのに対し、深い部分月食(全国で最大食が観られる条件)は、前回なら140年前の明治14(1881)年、次回なら65年後の2086年になるという低頻度であった。
そうなると、年齢的に私は次のそれを観ることはほぼ不可能となる(まあ今回も結局最大食は見逃したが……)。そんな、人の一生と天体現象との関わりについては以前日食の際にここでも記したが、やはり、なにか時の無情や人世(じんせい)の儚さの如きを感じずにはいられない。
天候の関係で西日本では比較的良く観察出来たというこの稀少月食。観察が叶った皆さんは、果たしてどの様に感じられたであろうか。