
一番山茶再び
今年の4月も愈々(いよいよ)今日で終り。
明日から5月に入るが、5月初旬といえば、「夏も近づく八十八夜」。存知の通り、芽吹いた茶葉を摘み、新茶を製す頃である。それは、立春から88日目を言うので、今年は5月2日となる。
折角なので、今年も昨年同様、裏山奥の野生茶「山茶」を摘み、研究がてら製茶してみようと思った。
とはいえ、八十八夜には未だ数日足らず、更に高地の冷涼で成長が遅い山の茶。事実、昨年も5月中旬に新茶葉の芽吹きを確認した。
ただ、今年は4月の気温が高く、平地の茶樹の芽吹きもかなり早くに観察出来たので、今日行ってみることにした。
果たしてその結果は……。
上掲写真 京都東山の奥地で密かに芽吹く新茶葉。先端の巻き葉を一芯(針)として、下に二葉が開く、所謂「一芯二葉」の一番茶を、暑い程の春の陽に晒す。

急登を進み、藪を分けて山中の茶樹に達すると、目論見通り新茶が芽吹いていた。そして、山の気を味わいつつゆるりと茶葉を摘むこと約1時間。中判のコンビニ袋にそこそこ収まる、250g程の生葉を得て下山した。
今年は持ち帰りの際の蒸れに注意し、袋の口を開け、直射光も当たらぬよう、ザック(登山背嚢)に収める形で運んだ。写真は、持ち帰った茶葉からゴミや不良葉を取り除くために新聞上に出したところ。

選別の次は茶葉を広げて少し萎れさせる「萎凋」作業に入る。縁側に置いた新聞紙に茶葉を広げ、1時間以上、日陰の気に晒すのである

そして萎凋後は昨年と同じく、電子レンジを用いる簡易製茶の準備のため、容器に吸水紙を敷き、生茶葉を入れラップをかける。その後、電子レンジに入れ3分程加熱する

電子レンジでの加熱後は容器内で茶葉が蒸れ、この様な状態になる。製茶行程でいう「殺青(さっせい)」という作業の完了で、これにて茶葉の色止めを終える。つまり、「緑茶」を作る上での重要な行程となる

殺青後は、紙に余分な水分を吸わせ、その後、笊(本来は茣蓙)上で茶葉を軽く揉む。笊の目と直交させるように茶葉の塊を転がし、中心葉脈に葉が巻くように揉むのである。そして今度はラップ無しで電子レンジで1分〜2分加熱し、また同じように笊上で揉むという作業を数度繰り返す

完成した野生新茶(山新茶)。250gの生葉は半分以下の重さに。本式製茶だと半日以上かかるので、茶が長らく高級品だったことを改めて認識
美味なるも謎解けず
加熱と手揉みを繰り返すと徐々に茶葉が乾燥してくるので、頃合いを見測り、最後に少々長めの乾燥加熱をを行う。
時間は茶葉の状態に依るが、今回は最初に製した生葉半分が解説書の分数を鵜呑みにしたため、少し焦げてしまった。残り半分は上手くいったが、何故か香りは失敗した方が良く、また味の出も深いものとなった。
そう、今回は去年より手際よく、上手作れたが、結局、焦げた方も含め、熱湯で時間をかけないと味が出ない、という問題は克服できなかった。手法・手順的に間違えはない筈なのに、何故であろう。
やはり、今主流の品種とはかなり性質が異なる茶なのであろうか。市販の山茶は蒸しではなく、釜煎り製茶で作られているので、野生種はそちらが適しているのか。もし存知の人があれば、ご教示願いたいものである。
まあ、それでも淹れた新茶は香り良く、美味であった。ただ、地理風土が近い、宇治の新茶とは異なり、大陸の「西湖龍井」緑茶に似た味になった(龍井最高の新茶とされる「明前」を飲んだことあり)。
やはり、最古の喫茶記録(1200年前)が残る、近くの崇福寺との関わりがある茶樹、「遣唐使の茶」なのであろうか。変わらず想像のロマンは膨らむが、特異な茶葉の謎は今回も解けなかった。
まあ、これも、続けて研究するしかないか……。