2024年11月09日
雲取奇遇
秋晴れの代替休日
月末の催事に向け忙しくなる頃だが、仕事を進めるための返答が来ない。また、今日は晴れで明日は曇り予報だったので、今日の作業を明日に替え、軽い鍛錬がてら、近山の紅葉具合でも視察することにした。
向かったのは京都北山。京盆地北縁奥に広がる山々で、丹波高地とも呼ばれる標高1000mに届かない場所だが、日本海気候の影響を受ける北陸的場所なので、そろそろ色づいているとみた。
果たして、その結果や如何に……。
上掲写真 京都北山・雲取山の北にある、眺望良き雲取北峰(標高約915m)山頂上の秋晴れを飛ぶ航空機と飛行機雲。
車輌で貴船奥の芹生集落を越え、嵐山の水景で知られる大堰川(桂川)の上流・灰屋川の源流域に着く。そこから林道を辿り付近の最高峰・雲取山(標高911m)を目指すが、珍しく林業作業(伐採)が行われていた関係で重機による凹凸や泥濘ある路面状態であった。ただ、台風倒木等の障害も撤去されており、また休みの所為か作業との干渉もなく比較的早く進めた
林道が終り、純粋な山道に入る。「道」とはいえ、人通りが殆どない場所なので、獣道程度か、それすらない谷筋を進む。平成末の台風被害のあと更に荒れ、近々通行が難しくなりそうなので注意すべきルートである。標高は750mを超えている筈だが、頭上の樹々はまだ緑であった
更に無人の谷を詰めると、漸く色づいた樹々が現れた。標高は850m辺りか
雲取山上
そして雲取山山頂着。ここの紅葉具合は写真の通り。風の強い場所なので、既に散ったものも見受けられた。
時は丁度正午頃だったが、眺望もなく、3名の別路先着者がいた雲取山頂では休まず、その北にある北峰まで進む。そして、辿り着いたその山頂はこの通り。当然ここも吹きさらしなので、紅葉具合の参考にはし難いか……
雲取北峰山頂からの見た、北方手前の地蔵杉山(右向こうの三角の杉山。標高899m)等の丹波高地及び彼方の比良山脈(最奥の稜線)。年に何度もないような温暖で素晴らしい天気なので、疲労はないがここで軽食休息に。奥の天然林は無論、手前の立体感ある北山杉の緑が美しい
上掲写真左奥を望遠拡大。先週、琵琶湖側から登行視察した比良山脈最高峰・武奈ヶ岳(標高1214m。中央)方面を見る。先週より赤味が進んだ気もするが、まだ足りないか……
こちらは、同じく上掲写真右奥を望遠拡大。比良第3位の高所・蓬莱山(右奥。標高1174m)と、その手前の北山最高峰・皆子山(みなこやま。中央奥一つ手前やや左の天然林頂。標高971m)で、武奈ヶ岳辺りと同様に見えるが、これから紅葉が進むのか、これで終るのかは判らず
色づく二ノ谷道
誰もいない雲取北峰頂での昼食を終え、下山に。帰りは雲取山頂まで戻り、そこからは別路の二ノ谷道に下った。すると、山頂近くの明るい灌木の林を過ぎたあと、写真の様な美麗の紅葉林が現れた。
二ノ谷道の紅葉林。結局ここが今日一番の色づきとなった。ただ、楓の枝先だけ赤く、他は黄いろかったので、まだ始まったばかりかもしれない
二ノ谷道の紅葉林を抜け、下降を続ける。途中、某大学小屋前に数多集う現役生やOBらと挨拶を交わしながら。彼らが租借しているからか、珍しく林道が無く、天然林が多い、昔の北山風情残す貴重な二ノ谷に入り、進む
両生類調査女子が見せてくれた成体のヒダサンショウウオ
貴重な天然林谷での奇遇
高度が下がり、また青葉多い森と化した二ノ谷を進む。すると、前方から地を叩く派手な音が……。
見れば、谷なかの樹々の合間で明るい髪色をした小柄かつ、うら若き女子独りが、何やら工具で斜面を掘っている。道沿いのため近づくと挨拶されたので落とし物か何かかと問えば、両生類の生態調査をしているという。
なんと、珍しい……。
小屋関係の学生さんかと訊くと、京都の大学出だが小屋の学校とは無関係で、既に社会人であるとも言う。これはただの登山者より断然興味深く、為になるので、自分も在野の文科研究者だと自己紹介をして更に話す。
なんでも、ここらの両生類には2種の越冬型があり、今時分はその両方が地中に居るため調査に適しているという。また、環境が良いこの山域も調査に適うらしい。なるほど、時期的な良さと、二ノ谷の自然が役立ったか。
邪魔を詫び、後学の礼を述べ、また沢筋を進むと、後方で女子が大きな声を上げ、走り、追いかけてきた。何か忘れ物でもしたかと、こちらも急ぎ戻って沢上で出会うと、なんと彼女の手のなかに動くものが……。
「いました、いました!」と興奮気味に掌を開き見せてくれたのは、まさに地中にいた両生類であった。それは、山椒魚の一種、ヒダサンショウウオらしく、絶滅危惧種ではないが、日本固有種とのことであった。
山椒魚といえばオオサンショウウオしか知らなかったので、他種が身近にいるとは知らなかった。また彼女は、それとは異なり、この種はこれ以上大きくならないことや、外来種との交雑はないことなども教えてくれた。
その後一度別れるが、今度は私が再度戻り、思いついた希望を伝える。それは、ここが貴重な場所であることや、こうした場所の破壊を目撃したら声をあげて欲しいとのお願いであった。以前遭遇した安祥寺山破壊の実例を挙げて。彼女は国有林が公儀に破壊されたことを驚いて聞いてくれた。
その後、再度の邪魔を詫び、沢を下った。二ノ谷の入口で、彼女の仲間らしき女子らと灰屋川を挟んでの挨拶を交わしつつ……。
憂鬱払う存在に感謝
奥山での不意の出会いながら、濃密な時間が過ごせた。これも山、または人生の醍醐味か。そして、稀少な快晴と良き出会いに、いつしか気分が晴れたことに気づき、それまでの鬱々とした感情の原因に思い至った。
それは米国の元大統領の再選である。連日見聞きさせられていた口汚く屁理屈だらけの言動の主が、まさかの勝利を得たことであった。物価高に喘ぐ庶民の切なる想いの表出ともいえる結果ではあるが、どこか短絡的現世利益に世界が呑まれたような気がして、暗澹たる気分にさせられていた。
しかし、今日こんな山奥で、何の利もなく足労し、休みを潰して土まみれになりながら、小さな生き物のため、自身の志のために人知れず活動する若者たちの存在を知ることができた。それだけでも、この世は生きる価値があると思わされ、救われた気分にさせられたのである。
実は、当初こんな貴重な快晴日に、人けのない山に入ることを少々躊躇していた。しかし、予想外の出会いを得た。まさに、世の中捨てたものではないことを、馴染みの奥山にて、奇しくも実感させられたのである。
真摯で可憐な探究者たちに感謝!
駐車場所に下り、その後通過した芹生集落。標高620mのここも秋晴れに包まれるが、錦秋の到来はまだ先か
北山南部の紅葉は山上近くで始まるか
最後になったが、京都北山南部の紅葉は、その最高所近くの標高800m以上の場所で始まったばかりといえそうか。
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/191138170
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック
http://blog.sakura.ne.jp/tb/191138170
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック