
猛暑を逃れ
何処かの高原道路の先にはだかる峩々(がが)たる山塊。普段は猛暑続く京都市街に在る身だが、一体ここは何処であろうか……。
実は、そこは標高2600m程の高所。森林限界を超えた高山地帯で、前に聳える只ならぬ山群は、彼の有名な北アルプス・槍穂高 山塊(最高所標高3190m)であった。
今朝から乗鞍岳山上を目指したが、その帰路のバス車内からの撮影。道路は一般車輌通行禁止の乗鞍スカイラインである。それは、普通車が登れる車道としては日本で最も標高の高い路線でもあった。

乗鞍山上への往復バスの乗換地で、自家用車駐車地となる中腹のスキー場及び駐車場。この駐車場の一角に登山バスの発着場と関連施設がある
避暑行初日の登山
さて、今日の乗鞍行は連日のあまりの暑さに計画した週末利用の奥飛騨避暑の一環。
本来は北アルプスでの野営登山を含む予定だったが、暑さと同行初心者を考慮し、登山は初心者向け高山の乗鞍日帰りにすることとした。あとは麓のオートキャンプ場に2泊して周辺の温泉や高地を巡る予定であった。
避暑といっても、有料道の割引や車中泊・オートキャンプを組み合わせた節約型。前夜京都を出て、途中の高地で車中泊し、良い場所の確保のため朝一に野営場に入って設営を済ませてから、ここにやってきた。
ただ、途中の紛らわしい案内板に因り旧道峠を越えることとなり時間と燃料を無駄にした。このことが、後の予定にも影響する。

登山バス乗場で山上までの往復券を買い山上に出発。それは予約が要らず、30分程おきに出発していたので便利であった。バスは一旦国道に下り、その後旧道を進み、峠からスカイラインへと入った。駐車場の標高が既に1230m程の高所だったので、車窓からの景色はすぐに亜高山帯的植生ある涼し気なものとなった。駐車場は意外に暑かったが山上は如何に

慣れぬ車中泊の影響か、少し眠くなったが頑張って車窓を観察。つづらの登りで高度を上げる車窓からは、北アルプスの名峰・笠ヶ岳(標高2897m)が現れた。実は当初、キツさで知られるその直登路からそこに上り、肩のテント場に野営する予定であった。こんなに暑いのにまだ残雪が見える

そして、槍穂高の威容も。左端の小さな尖りが槍ヶ岳(標高3180m)、中央右の高所が奥穂高岳(同3190m)である

今朝通過した高山(たかやま)市街や、その背後彼方の白山(標高2702m)も。標高650mで京都より涼しい筈の高山も最近猛暑日が続いているらしく、今日もその予報であった。正に異常気象か。それにしても、槍穂より標高の低い白山の方が残雪が多いことに驚く。冬に多雪だった影響か

バスは更に高度を上げる。周囲は針葉樹の高木が減り、低木の林となりつつあった。通行が許されているためか、時折自転車が現れることに驚く。崖際のカーブ等でバスと対面するので少々危険を感じた

そして山上のなだらかな緑地が見えてきた。もはやハイマツか草しか生育出来ない森林限界に達したようである

森林限界に達したとはいえ、まだつづらの登りは終わらない。そして、山肌の荒々しい溶岩の姿が車窓に接近

山上の草地に上がると、少ないながら、残雪も現れた

そして終点のバスターミナル着。所要時間は50分程。東麓、即ち信州側からの道との合流点で、日本最高所の停留所であった

剣ヶ峰へ
バスターミナルの休憩室で身支度を整え、いよいよ乗鞍山頂へと向かう。
一旦ターミナル下の窪地に下り、そこに続く登山道をゆくのである。看板に記された出発地標高は2702m。白山山頂と同じ高さながら残雪は僅かであった。
それにしても天気が良い。今日は午後から雨予報だったので明日に替えることも考えたが、似た天候のため決行。今のところ正解か。

ターミナル下の窪地にある「お花畑」。登山道横の分岐路が湿地上で輪を成して高山植物を観察出来るようになっているが、路傍の咲き具合とあまり変わらなく見えたので、寄らずに先を急ぐことにした

窪地縁の登坂から振り返ってみたお花畑と残雪、そして背後のバスターミナル。ターミナルが大きな噴火口の傍にあることに驚かされる

窪地縁の登坂を終えると、夏でも雪が消えず、残雪と池水の色具合が美しいことで知られる「不消ヶ池」が現れた。正に氷河湖的な鮮やかな色合いだが、実際、乗鞍唯一の氷河由来地形という。但しその土手は天然のモレーンではなく、人工的積まれ、整形されたものに見えた。現在、山上施設の水源となっている為か。それ故、接近は禁止されている

路傍にはこの時期らしいこの様な花々が。高山植物のイワツメクサである

こちらは、著名な高山植物の女王・コマクサ。厳しい不毛の高山地表に逞しく繁茂する様に改めて感心させられる

不消ヶ池横上の道は奥の山小屋や観測施設の為の未舗装車道となっており、山頂への道程もそれを辿る。そして摩利支天という支峰の山腹を巻くように進むと、やがて乗鞍主峰・剣ヶ峰(右奥。標高3026m)が現れた

剣ヶ峰山頂を望遠撮影。本邦3000m超山岳に相応しい、厳然たる姿。頂上には祠の姿も確認できた

山腹下方の大きな雪渓、所謂「乗鞍大雪渓」に何やら人がいると思えば、スノーボード等のスキー客であった。東北の山等での夏スキーは聞いたことがあるが、中部地方では聞いたこと無し。というか、そもそも初めての実見であった。しかし、陽射しが強く、半袖でも平気な陽気だったので、雪質については案じられた

宿泊可能な最後の山小屋「肩の小屋」前で車道と別れ、山道に戻る。そこは、山頂までの急登の始点でもあり、「剣ヶ峰口」との標柱が立っていた

乗鞍岳・剣ヶ峰への急登道を行く多くの登山者と頭上を行き交う救難ヘリ
大小の石により足下の良くない登坂を進む。同行初心者を待ちつつである。天気が良いのは有難いが暑いくらいの登山道を、老若男女の登山者が数多行き交う。さすがは3000m級登山の入門地かつ百名山の一つ。
ただ、その所為かマナーは悪く、登り優先等の基本ルールの無知は疎か、グループが横一列で下り突っ込んでくることも珍しくない状況であった。
そうした登山路の上空に救難ヘリが何度も現れたが、訓練かと思っていたその活動はのちに遭難者の収容だったと知る。この様に、高山では容易く思われる場所でも命の危険が潜んでいる。皆、心してもらいたい。

休みやすみ急登を進む同行者を見守りつつ進んでいると突如山上に雲が沸き起こり、雷鳴が聞こえだした。そして剣ヶ峰直下の稜線小頂のこの蚕玉岳(こだまだけ)に着いた辺りから雨もパラつき始めた。まずい、これでは山頂に着くまでに中止撤退に追い込まれてしまう。故に単身急いで山頂まで行くことにした

間もなく頂上小屋到着。飲料による休憩と記念品販売を目的とした小屋らしいが、こうした天候変化の時には心強い存在。本来はゆっくり中を覗かせてもらいたかったが、今は先を急いだ

やがて、剣ヶ峰山頂着。頂上小屋から50m程の高さを登ったところである。立派な祠に先ずは参拝。幸い先程の雷雲は逸れたようで、少し青空も見えてきたので、遅れていた同行者初心者の登頂を待つことにした

剣ヶ峰直下にある権現池。山頂下は巨大な噴火口跡で、山頂や稜線はその外縁であることがよく観察できた。因みに、権現池は国内火山湖としては御嶽山(標高3067m)の二ノ池に次ぐ高所にあるという

乗鞍・剣ヶ峰山頂の祠裏から見た、登り来た登山道や稜線続きにある小頂・朝日岳(中央左上。標高2975m)。まだ天気は怪しいが、祠や小屋等の退避場もあったので、同行者の到着後、共に山上で軽食を摂った

霰(あられ)混じりの雨が降る乗鞍・剣ヶ峰山頂
予報早まる
ところが、食後また急に天気が悪くなり本降りの雨が始まった。予報では15時頃からだったので大丈夫かと思ったが、早まったようである。
おかしな道路標識惑わされず1本前のバスに乗れれば、晴天の山頂を踏め、今頃安全な剣ヶ峰口まで下がっていたのに、と後悔するも仕方なし。
一先ず祠の庇下に数組の登山者と共に退避。体感温度も急激に下がり、雨衣を着つつ濡れと寒さの対策を実施。そして雷鳴。雨も強く、落雷の危険もあったので、暫し祠に閉じ込められることとなった。
退避者の中には雨具がなく、しかも観光姿で身を濡らした若者がおり、寒さで震えていた。気の毒だが山の脅威を知る貴重な経験になったと思う。

雷雨に濡れた乗鞍剣ヶ峰からの下り道
結局1時間程の足止めの後、小康を得たので足下に気をつけつつ下山することにした。本降りの雨と雷鳴の所為か、あれほどいた登山者の姿は殆ど見えなくなっていた。
ただ、また観光姿のずぶ濡れで登ってくる若者がおり、案じられた。登りは身体が熱くなっているので耐えられるだろうが、山頂以降は急に冷えるので危険な為である。
確か先程の晴天時でも気温自体は12,3度の筈なので、更に気温低下が進んだ可能性もあった。そうなると、平地の冬同等の過酷さとなる。

やがて剣ヶ峰口まで下降し、高山歩行に慣れない同行者共々、肩の小屋で休憩させてもらった。振り返ればまた雲に呑まれる剣ヶ峰が見える。今日はもう晴天は望めなさそうである

既に盛り過ぎる?
帰りはお花畑の窪地は通らず、その隣にあるこの鶴ヶ池の縁を通る道程からバスターミナルに戻った。

鶴ヶ池付近の路傍で名残りの高山植物観察を行う。これはイワギキョウ

これはウサギギク。この他チングルマ等もあったが割愛
改めて最後によく観察してみると、どの花もどこか元気がない。コマクサやイワギキョウは萎れ気味で、このウサギギクも花弁が欠けている。
そもそも高山植物の盛期の筈なのに期待した程の数がないように感じられた。ひょっとして、早くに気温が上ったため、既に盛りを過ぎたのか。その裏付けか、チングルマは既に花が無く、全て綿毛になっていた。

登りより迫力ある、乗鞍スカイラインの下りバスからの眺め。正に天空路で、少々怖い
バスターミナルに帰着後は雨具を片付け下山バスに乗車。小雨だが雨は降り続いていたので、野営地の天幕等を心配する。そして、登りより迫力ある車窓景を眺めつつ麓まで下った。

奥飛騨の野営地での夕食準備(炊飯と湯沸かし)
避暑初日は成功に
麓のターミナルで車に乗り換え野営地に。そこには意外と雨の痕跡はなく、不都合はなかった。麓の予報も同じく午後から雨であったが、山上のみ強く、長かったようである。
その後、最寄りのスーパーまで買出しに行き、夜は野営地近くの名湯で往路及び山の疲れを癒し、焚火による飯盒炊爨夕食を実施。地元名産の飛騨牛等がお値打ちかつ美味であった。
そして夜分は寒いくらいの気候となった。元より昼でも涼しい高所・林間ではあったが、今日も猛暑・熱帯夜の京都とは比べ物にならない快適さ。
山上での急変等もあったが、一先ず避暑初日は無事予定をこなせ、涼も得られて、成功裡に終えられたのである。
