
松の内の謎調査
まだ正月・松の内に唐突だが、遠望した大文字山を。
実は昨年末の写真で、紅葉も終り、冬枯れが覆う面白味のない姿が写るが、この中に異状があることにお気づきであろうか。
それは、中腹の赤い樹木である(画像中央)。
紅葉の終ったこの時期に、まさかの鮮紅の樹があることに先月気づいていたが、年終会の買出し時に他県に住む友人もそれを発見し驚いた。
彼曰く「こんな時期に紅葉はおかしい」と訝り、私も同調したが、その正体については答えられなかった。
ここ二十年程眺めている馴染の山景だが、初めて気づいた為である。
続けて友人は「近くに住むのなら現地に行って確認してみれば」と言う。よって、年明けのどこかの機会に調べるつもりでいた。
そして、今日午後その機会を得たので、靴だけ山用を履いた身軽な出で立ちで山に向かってみることにしたのである。

上記写真の拡大画像。厳冬期に入った年末に不似合いな、鮮紅の「何ものか」が、確かに二つ……

山麓から山腹へ
先ずは山を見て、まだ同様の赤い植生があるのかを観察。
そして、正しく年末と変わらぬその姿を確認したので、山へ入るべく、麓に接近した。写真は麓から見た山中の鮮紅植生。
二つ共々、ほぼ年末と変わらずその鮮色を保っていることに先ずは驚く。葉や花ではなく、実のようなものであろうか。
しかし、それなら遠くから見えるには膨大な量のそれが必要となり、その状態を維持するのも難しい筈。
調査直前だが、謎は深まるばかり――。

場所は大文字山山体下にある前山(善気山・多頂山)の山腹にあり、浅い谷の上部であるらしきことを目視確認したので、一先ずそこへの接近と現在地把握がし易い左隅(南)の尾根筋を登ることにした。但し、そこは、この様な全く道のない山林かつ急斜。落ち葉に足を取られながら慎重に進む。靴だけでもちゃんとしたものを履いてきてよかった

この尾根筋は以前探索したことがあったが、以前と比してかなり荒れており、通行に難儀した。そうである、あのあと現地を襲った平成30(2018)年の台風21号の影響が残っていたのである。これは倒木やその後生じた藪で迂回せざるを得なくなった箇所。同様の場所が続くが、中央に立つ古い寺領碑が唯一尾根上であることを証す

以前も紹介したが、寺領碑は麓にある法然院のもので、これより北西、即ち尾根筋の左が寺領であることを示す。恐らくは近世・江戸期のものか

倒木を潜り、藪をかき分け高度を上げる。目当ての樹がある辺りまで来るも藪で何も見えず。仕方なく、一旦前山の頂部まで登りきり、そこから現地に下降する方法を採ろうかとした時、樹間に一寸鮮紅が見えた

大文字山前山の南尾根筋から見えた、真冬に鮮紅の樹冠を見せる謎の樹木
謎の樹発見
発見した樹を望遠レンズで拡大視してみると、やはり該当の樹に間違いなし。しかし、その赤が葉なのか花なのか実なのかは判別できなかった。
そこへと接近すべく、一先ず頂部に上る。しかし頂部から谷下に真っすぐ降りるルートが藪のため採れず、仕方なく、もう一つ奥の尾根から法然院とへ続く既存道を下った。

そして、該当樹の下に至る。そこは法然院が管理する「観察の森」がある深い谷底であった。なんと、鮮紅の樹冠は高木上にあり、同じく大樹が多いその谷を浅い谷に誤認していたのである。最初から地形図で確認しなかったことを反省。それにしても、非常に遠くから目立つ樹なのに下からは判り辛い。実は先月鍛錬帰りに通っていたにもかかわらず気づけなかった

そして、樹下から見上げ、望遠撮影するが、高さがあり過ぎて枝先の鮮紅の正体は判らず。ただ、先程の横からの画像等と合わせて検討した結果、葉や花でなく、房状に密集する実ではないか、と思われた。しかし樹下にある筈の実は発見できず、代りの花や葉も無かった。これもまた謎の有様で、更に隣の同種樹には実も葉も無い状態だったことも、謎を深めた

樹皮はこの通り。直径50cm程の大木で、近くに同種・同径の樹もあったので、特段珍しい樹ではないかもしれない。観察の森内は方々に樹種名を記した銘板が掲示されており、この樹の傍にも「ヤマモモ」の表記があったが、枯れて失せた別樹の苗等のものと思われた

法然院裏の大文字山前山山腹に広がる「観察の森」
特定成るか
その後、更に近くで樹冠を観察できる場所を探すも、横の檜が邪魔したり、谷央のため発見時と同じく離れた尾根からでしか同じ高さで見れない、という結果に終わった。
よって、問題を持ち帰らざるを得ず、現地外で改めて調査することにした。
現地外調査を進めると、法然院の森の樹種を記した資料こそ俄に入手出来なかったが、隣接する銀閣寺国有林の調査・研究資料は見ることが出来たので、それを参考にした。
植生資料から抽出出来たのはモチノキ科の植物。それは鮮やかな紅葉と見紛う許かりの大量の赤い実を、寒中長く残すという条件から導き出した。
資料のなかに挙げられていたモチノキ科の樹種は6種。その内、落葉性のものはアオハダとタマミズキの二種のみとなった。
なるほど、それら二種は高木の落葉樹であることは勿論、雌雄があり、実を付けない樹があることなどの謎とも合致した。
では、実見した樹はその二種の何方(どちら)なのか。似通った樹のタマミズキとアオハダの違いは少ないようだが、枝先に実が付く画像の比較によるとタマミズキに近い気がする。
タマミズキの方が実の量感が強いように感じられたからである。しかし、そうなると最初の写真にある上下二樹の違いが気になった。
上下二樹の違い
それは、麓等の遠方からも認識していたもので、実の付き方や密度に違いがあるように感じられたからである。
本来なら現地で見比べられれば良かったが、もう一方の樹が他樹の葉等に邪魔され、どうしても詳しい観察や撮影が出来なかった。
両者の違いは果たして樹種の違いか個体差か。見た目的には線の細い赤の上部がアオハダで、量感があり上向けに枝を張る下部がタマミズキの様な気がするが如何であろうか。
確実に決定するには現地で葉や実を採取するしかないが、一先ずはこの二種である可能性が高そうである。
以上、近所でのふとした疑問から生じた細やかな調査となったが個人的に山や植物の奥深さを改めて知る機会となった。
もし、何かご教示頂ける読者がいれば幸いである。
