2011年02月13日

大和探墳

「古代史の要地」奈良盆地東南・桜井市箸中地区を横切る旧国鉄桜井線(現万葉まほろば線)

今年初回の記念的企画開催

2月の連休最終日、久々の「平会(ひらかい)」が行われた。場所は前回と同じく奈良。「環濠集落」という、中世の痕跡を探った前回とは異なり、今回は、古墳とその関連遺構を巡るという、古代痕跡探訪の企画であった。

2月上旬という最寒気候の中、そして日程変更に因り告知が直前となった為、参加は中核メンバーに限られたが、今年初回の記念的企画として、意気盛んに臨んだのであった。


上掲写真: 桜井市箸中地区を横切る旧国鉄桜井線(現、万葉まほろば線)。奈良盆地東南山麓という郊外風情溢れる地であるが、大規模かつ重要な古代遺構が集中する為、広域政権の中心地、即ち、かの邪馬台国や大和朝廷前身の所在地とも目される、歴史学上の要地であった。


奈良盆地東南・三輪駅近くの大鳥居ある参道を下り桜井市埋蔵文化財センターへ向かう参加者

「纒向」探査開始。先ずは埋文センターへ

京都から電車で約1時間15分、奈良盆地東南は桜井市の三輪駅に着いた。時は午前10時過ぎ。今日の主体的探索地「纒向遺跡」に行くには、手前の巻向駅の方が近いが、三輪駅近くにある市の埋蔵文化財センターに立寄る為、ここを出発地とした。

写真は、三輪駅近くの大神神社(おおみわ・じんじゃ)参道を下ってセンターへ向かう参加者。所々路端に雪残る寒さの中をゆく。覚悟、対策は完備の上であったが、口を衝いて寒さへの感懐が漏れる。

実は、色々と評判高い大神神社にも立寄りたかったのであるが、探査地が広範であった為、欲張らずに、またの機会に譲ることとした。


墳丘側面(前方部角)から見た奈良盆地東南の纒向遺跡最大遺構「箸墓古墳」

先発は纒向一の大墓「箸墓古墳」

埋文センターにて出土品の見学や、纒向遺跡に対する予備学習を済ませ、フィールドへ向かう。センターから、古代路「上ツ道」の後身とされる「上街道」を北上して最初に辿り着いたのが、遺跡の南端である「箸墓古墳」であった。

箸墓古墳は、4世紀前後頃に作られたとされる前方後円墳。墳丘部全長280mという規模で、纒向遺跡最大の遺構。遺跡の中核的存在である為、古くから卑弥呼の墓ではないか、との推察も多くの人に行われた(卑弥呼の推定没年は3世紀半頃なので、現在ではその後継女王「台与」との関りが言及されることが多い)。

写真は墳丘側面(前方部角)から古墳を見たもの。道に沿って小山の森がうねり続く様に、その壮大を感じさせられる。うねりは、前方後円墳特有の「くびれ」に因るもの。ここは皇祖「倭迹迹日百襲媛命(やまとととひももそひめ)」の墳墓として宮内庁に管理されている為、外周部からのみの見学となる。


周濠跡とみられる溜池越しの北方から見た、奈良盆地東南・纒向遺跡最大墳墓「箸墓古墳」の全容
「箸墓古墳」墳丘部全景(北方より)

写真に見える様に、墳丘北側は大きなため池と接している。嘗て存在した周濠の一部を踏襲して作られたものであろう。以前、池で行われた発掘調査では、前方部際から幅10m以上の張出しが発見され、墳丘の更なる壮大さが確認されたという。宮内庁管轄の為、墳丘内では殆ど学術調査が行われない現状では、こうした周辺部の調査による遺構解明の努力が続けられている。

それによると、嘗てはその存在を疑問視されていた大規模な周濠が発見されたという。しかも2重で、内外を隔てる堤の幅も含めると、実にその全幅は80mを超えるものになるとのことであった。同時期の古墳には例を見ない設備とその規模は、被葬者が誰であれ、この墳墓の特殊性を更に強めさせる材料となった。


奈良盆地東南・箸墓古墳の外濠か外堤との関連が窺わせる、湾曲する田圃道
箸墓古墳から山手側へ東上し、田圃の道をゆく

箸墓の後円部端から140m程離れたこの畔道。弓なりに湾曲しているのが分かるだろうか。実はこの湾曲は後円部のそれと相似している。この畔より古墳側の地割が、周囲の条里制起源地割と異なることなどを勘案すると、古墳に関連した何かの痕跡の可能性が生じる。

具体的に検討すれば、外濠端かその外堤か。ここでの調査はまだ行われていないようなので、確かなことは言えないが、興味深い発見となった。


奈良盆地東南・箸墓古墳の東にある畑中に階段状のホケノ山古墳

古墳公園?ホケノ山古墳にて昼食

謎の湾曲から少し東上した場所に現れたのは、次なる見学地「ホケノ山古墳」であった。写真はその姿を西下より見たもので、畑中に段状の姿を晒している。全長約90mで、箸墓に比べてかなり小振りに感じられたが、宮内庁管轄ではないので、墳丘部の学術調査が行われている。それによると、その築造は箸墓に近い3世紀後半頃、石囲木槨や画文帯神獣鏡などが発見されているという。

正午をまわったので、公園的に整備された古墳前方部のあずまやにて昼食休憩をとることにした。陽射しが出てきたが、気温はあまり上っていないようである。しかし、徒歩にて身体を動かしている(温めている)ので、皆問題なさそうである。


奈良盆地東南・纒向遺跡のホケノ山古墳頂部から見た、箸墓の森やその他の古墳、背後の耳成山に奥の葛城・金剛の山々
ホケノ山古墳頂部より西方を見る

正面の大きな森が箸墓、その後背奥に連なる山塊は葛城・金剛の山々。山と箸墓の中間に見える盆地上の小山は、かの藤原京の基点的な丘で大和三山の1つでもある「耳成山(みみなしやま)」。実は箸墓の手前にある笹薮も古墳。古代に於ける奈良盆地南部の価値たるものがよく体感出来る眺めといえよう。


畑の中に取り残されるように点在する、奈良盆地東南・纒向遺跡の大小の古墳のマウンド
畑の中に取り残されたような、または隆起してきたように点在する古墳のマウンド(小丘。大小2つ)

纒向遺跡内では総数25基程の古墳が確認されているというが、特にホケノ山周辺ではよく目にする。目が慣れてくれば、遺跡図を見なくとも「ここにも、あそこにも」と面白い様に見つけることが出来る。聞きしに勝る凄い場所である。


奈良盆地東南・纒向遺跡近くの集落裏の山肌に露出する珠城山古墳の石室

突如遭遇、番外編「珠城山古墳」

ホケノ山から北上して「巻野内」という地区へと向かう途中、突如目の前に以前どこかで見たような「異景」が飛び込んできた。山肌に穿たれた四角い人跡――。地表に露出した古墳の石室であった。

自然景の中に突如それが現れた様は、嘗て大陸荒漠で遭遇した古跡を想わせた。廃滅して変容した人跡の出現に驚きと恐れを感じたが、それと同じ感覚に見舞われたのである。


奈良盆地東南・纒向遺跡近くの珠城山古墳の石室見学のため墳丘に登る平会参加者

向かう方角も一致していたこともあり、予定になかったその石室遺構を見に行くことに。写真はその遺構がある丘の入口の1つ。ここも整備されて史跡公園の如き場所になっているようである。

遺構の名は「珠城山古墳」。古墳時代後期である6世紀に築かれたとみられる豪族墓のようである。東側山地から続く尾根的な小山の様に見えるが、実は前方後円墳が3基連なったものという。纒向の遺構とは時代や性質が異なるが、番外編ということで暫し見学することにした。


奈良盆地東南・纒向遺跡近くの珠城山古墳の石室見学のため墳丘上の見学路を進む平会参加者
珠城山古墳の墳丘上につけられた見学路をゆく

僅かながら、墳丘上を縦走できるという中々楽しい遺構である。写真で見る通り、東方山地等、周囲の遠望もきく。

路面にもそれが窺われるが、墳丘表土は大変柔らかい赤土。東南アジアのラテライトの如き色合いで、日本ではあまりお目にかかれないもののように感じられた。そんな稀少さの所為か、戦後大規模な土取りが行われ、先端の3号墳が殆ど消失してしまったという。


奈良盆地東南・纒向遺跡近くの珠城山古墳群の墳丘間に設置された案内板
珠城山古墳群の墳丘間に設置された案内板

小山内に於ける古墳の位置・形状が図示されている。一同得心、そして感心。


奈良盆地東南・纒向遺跡近くの珠城山古墳群・1号墳の石室
そして先程見えた石室へ。山手側(東。案内図右端)の1号墳の後円部側面にあった

少し屈めば難なく入れる大きさ。豪壮な石使いと未だ歪みを見ない堅固さに、墓主一族の財力並びに権勢が窺われる。発掘された際には、石棺と共に環頭太刀や黄金装身具等の数多の副葬品が得られたという。


奈良盆地東南・纏向遺跡東北端付近の巻野内集落で見た側溝に残された曰くありげな石材

珠城山古墳がある「穴師」地区を西へ下り「巻野内」地区へ。建屋跡や集落防御遺構等が検出されている纒向遺跡東北端辺りに相当するが、地表には特に何もなかったので、そのまま西進し、遺跡中心地辺りへ向かうこととした。

写真はその途中、巻野内で遭遇した側溝に残された石材。重く、硬度の高い「石英斑岩」のように思われたが定かではない。ただ、近隣では取れない石かと思われた。側溝整備の際、その重さのため移動出来ずに放置されたのか。とまれ、そのユニークな姿に誘われ、一写。

因みに、この近くに垂仁天皇の「纒向珠城宮」の伝承地を示す石碑が立っている。ひょっとすると、この石もそれら古代広域政権に関する遺物であろうか。


奈良盆地東南・纏向遺跡の太田地区の田圃に現れた現存最古の前方後円墳「石塚古墳」

最古(?)試みの前方後円墳「石塚古墳」

巻向(纒向)中心の住宅地を抜け、更に下って西郊「太田」地区の田圃地帯に出る。そこに現れたのが、写真の石塚古墳であった。戦中に砲台改変を受けた為、これまでの古墳で最も残高が低い地味な存在であるが、実は大変重要な遺構である。それは、この古墳が前方後円墳としては現存最古のものと目されているからである。

その推定築年は、土器編年法で3世紀初頭から半ば。絶対年代を算出するには未だ色々と問題があるようだが、相対年代としては、やはり最古のものと見られているようである。勿論、韓半島南部にも分布している前方後円墳全てを含めた算出である。

後円部が正円ではなく、周濠形状も不均一の為、箸墓古墳以降定型化される諸墳に比べて、最初期の「試み」の如きものが見てとれるところも、貴重といえる。


奈良盆地東南・纏向遺跡の前方後円墳「石塚古墳」の周濠遺構とみられる窪地
これまでの多くの調査を経て復原された石塚古墳の周濠遺構。幅約20mという。前方部側面では30mに達するとのこと

古墳の墳丘全長は96m。現在では国史跡として保存されているようである。


畑のなかの森状の姿を見せる、奈良盆地東南・纏向遺跡の「勝山古墳」

特異形状墳「勝山古墳」

石塚古墳の次は近くにある勝山古墳へ。勝山古墳は、前方部と後円部の間にその接続角度を緩和するような「接続部」を持ち、前方の幅も一定という特異な形状。柄の付根が広い、手鏡のような形状といえようか。

墳丘全長は約110m。築年には諸説あるようだが、石塚同様、古墳時代前期頃で、箸墓に先行する古墓と見られている。


周濠の一部を踏襲したとみられる溜池に接する、奈良盆地東南・纏向遺跡「勝山古墳」
勝山古墳西側(後円部端)

後円部の西から北側にかけてL字形の溜池が接する。周濠の一部を踏襲・改変して造られたものと思われる。


植林された歪な形状を畑中にさらす、奈良盆地東南・纏向遺跡の「矢塚古墳」

意外に遠望かなう「矢塚古墳」

勝山古墳の次は同じく近隣の矢塚古墳へ。写真はそれを南から見たもの。植林が施された歪な形状により古墳とは判じ難いが、調査の結果、勝山古墳等と同時期頃に造られた前方後円墳であることが判明している。墳丘全長は約96m。


奈良盆地東南・纏向遺跡「矢塚古墳」の墳丘上にあるとされる埋葬部材の石板を探す平会参加者
矢塚古墳墳丘上にて

樹木で覆われているものの、結構な残高がある為、意外と遠望がかなう。墳丘上に埋葬施設の一部と思われる石板が露出しているとの情報を資料から得ていたが、確認出来なかった。

この矢塚古墳と勝山、石塚の3古墳は、纒向小学校のの3辺(西・北・東)に接して均等に存在している。何か、共通する「企画」の存在を感じさせられる配置に思われた。


美麗な竹藪に覆われ一面の田圃に浮かぶ、奈良盆地東南・纏向遺跡の「東田大塚古墳」

美麗な古墳「東田大塚古墳」

矢塚古墳から南へ250m程進むと、田圃の只中に次の遺構「東田大塚古墳(ひがいだおつか)」が現れた。手入れが行き届いた竹薮に覆われた、実に美麗な遺構である。

これも、勝山古墳同様、前方部と後円部に接続部を持つ特異な形状という。現在、前方部は殆ど消失しているが、調査の結果、周濠つきの前方後円墳であることが判明している。その墳丘全長は120m前後。築年は、前の3墳同様、古墳時代前期であるという。これらの古墳が「纒向古墳群」と呼ばれ、前方後円墳の出現期に生じた最古の一群と注目される所以ともなっている。


手入れされた美麗な植栽をもつ、奈良盆地東南・纏向遺跡「東田大塚古墳」の後円頂部
東田大塚古墳、後円頂部

墳丘内も、良く手入れされた果樹等の植栽が見られる美麗さ。恰も「築山」の風情か。頂部には三等三角点も存在。公私何れの所有かは不明だが、纒向古墳群中、最も墳丘が保存されたものだという。


奈良盆地東南・纏向遺跡の「東田大塚古墳」北面から見た三輪山
東田大塚古墳北面から三輪山を見る

大神神社の神体として古くから地域で尊崇される三輪山は、この様に纒向遺址のほぼ全域にその存在を示す。出土品からも古代三輪信仰との関連を窺わせる遺物が出ており、古墳との関りも推察される。


保守作業による運転休止を告げる、奈良盆地東南・JR巻向駅の貼紙

終了なるも、電車はお休み(?)

東田大塚古墳から畔道を東上して巻向街区へ向かう。有名な木製仮面が出土した方形周溝墓付近や、大量の桃の種が見つかった祭殿遺構等がある遺跡中心地を巡ったが、何れも埋め戻されていて見るものはなかった。

時は3時前。少し早いがこれにて終了ということで巻向駅へ向かったが、何と、保守作業のため4時半まで列車が来ないと告げられる。一応観光地であるこの路線で日曜昼間に保守とは……、少々呆れ気分で収めたのが、改札の貼紙をとらえたこの写真であった。

まあ仕方がないので皆と相談し、列車の時間まで、予定になかった古墳等を巡ることにした。第2部「番外編」の始まりである(笑)。

続く……。

posted by 藤氏 晴嵐 (Seiran Touji) at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 平会
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