古家における茶の可能性探る今日はうちで試験茶会を行った。
去年の春に続き2回目で、
今年春の野点を含めれば3回目ではあるが、今日は茶懐石と濃茶点前(こいちゃてまえ)が含まれる本式的なものであった。
稽古等で濃茶点前には接したことはあるが、懐石等を含めた一式に接するのは初めて。よって、お点前さんの練習を兼ねて一先ず体験し、普段生活する町家・古家におけるその実施と可能性を探ることにしたのである。
ただ、今回は前週に山会があったことや道具類の準備不足等の為、声かけが直前となり、ごく少人数での開催となった。
上掲写真: 京町家造りの古家の、「店の間」の帯戸に貼られた禅語「喫茶去(きっさこ)」。「お茶でもどうぞ」の意。床の間がない部屋の為、このように仮に掲げてみた。

3間続く町家造りの拙宅の、最初の部屋「店の間」を待合、「居間」を茶室として部屋の準備を整えた。座卓や椅子等の調度品は片付けるか隠すなどする。普段から極力物を置かない和式生活を送ることが肝要に思われた。
先ずは酒食から待合に客が入れば「白湯(さゆ)」が出され、茶会が始まる。茶室への入室を促され、床の間の軸等を鑑賞するが、今日は省略。
本来なら茶室には奥庭経由で入ってもらうので、3間の横を玄関から水場経由で庭まで抜けられる「通り庭」が使えれば最良か。残念ながら、うちのそこは、後付けされた風呂場で閉じられていた。
茶室に着座すると亭主が膳(本来は折敷)に飯碗・汁椀・向付(むこうづけ)の料理を載せて現れ、写真の如く客前に置く。

飯碗と汁椀の食事を頂いたあと。有り合わせの器類だが、ご容赦を
「飯」と「汁」を交互に頂き、各碗を空ける。そして亭主より盃に酒を貰い、それを飲みつつ「向付」の刺身等を頂く。
本来屠蘇器に似た「燗鍋(かんなべ)」に入れられるという酒は末客に預けられ、客同士随意注ぎ合う。
その後、飯と汁の御替わりが供される。

汁とは別に供される煮物
飯と汁の御替わりが終ると「煮物」が供され、二献目の酒を貰い、共に味わう。
次に魚等の「焼物」が供される。焼物の次は、一品の「預鉢(あずかりばち)」と、その後に酒の肴として「強肴(しいざかな)」が出される場合があるが、どれに何が出されたかは失念。
そして、徳利と石盃(せきはい。陶磁器盃)が出され、酒を亭主に注がれるか、客同士で注ぎ合うかする。そして飯の御替わりである飯器(御櫃)がまた回ってくる。
酒も飯も少量かと思っていたら、結構出てくることがここにきて判明。
この後、器の「拝見」と亭主の水屋での食事(「相伴(しょうばん)」)となるが、割愛。そして、「小吸物(こすいもの)」という清めの意があるという汁を頂く。

八寸の代わりに使われた丸皿と取肴

そして神聖かつ重要とされる、山海の幸が置かれた「八寸(はっすん)」が出される。本来は八寸角の板盆が使われるという。
先ず、亭主より三献目の酒を貰い、「海のもの」を小吸物の蓋に入れてもらい賞味する。その後、亭主と客が一つの盃で酒を注ぎ合う「千鳥の盃(ちどりのさかずき)」を行い、「山のもの」を同様に貰い賞味する。
気軽に受けていると、意外な酒量となることに気が付く。茶会たることを忘れてしまう程に(笑)。そして、最後にまた亭主と正客の酒の注ぎ合いとなる。
結構食べて飲んだので、これで終りかと思えば、次は飯のお焦げが少々入れられた白湯の「湯斗(ゆとう)」が出され、少し飯を残しておいた飯碗と汁椀に入れ、「香の物」と一緒に頂く。即ち茶漬けであり、禅寺等で行われる碗の清めでもあった。
その後、懐紙にて全ての器・箸を清める。そして、最後に折敷の縁から箸を落として音を鳴らし、食事の終りを告げる。

亭主手作りの主菓子
酒食終って茶事に酒食が終ると、器等の片付けが行われ、次に「主菓子(おもがし)」または「縁高(ふちだか)」と言われる菓子が出されて頂く。
いよいよ茶事の始まりである。今日の主菓子は亭主手作りの品。利休好みの菓子の外皮を卵使用でアレンジしたらしい。

客同士が回し飲みする濃茶点前の開始
そして、亭主の点前が始まる。本式・主要たる「濃茶点前」である。
なお、本来は季節的に夏用の「風炉点前(ふろてまえ)」となるが、今回は準備の関係で「炉点前(ろてまえ)」とすることにした。茶碗も、お点前さん新入手の冬用「筒茶碗」。
炉は前回同様、炉縁(ろぶち)と電熱器による仮想・見立てによるもの。極限まで丈が低い機器と自作専用杓置を設置したので、難なく行えた。

小生自作の日向夏ピールによる干菓子

続いて一人一碗で飲む薄茶点前に
濃茶の回し飲み後は、道具の「拝見」を割愛して終了し、「薄茶点前」となる。
最初に「干菓子(ひがし)」が出され、その後、客毎に点ててもらった薄茶を頂く。
干菓子は当方自作で、乾燥させ過ぎたため使いたくなかったが、時間がないことと「極力あるものを出し合う」という趣旨により、仕方なく使用。

薄茶の受け渡し
薄茶終りで全もてなし終了そして、薄茶が終るとまた道具類の「拝見」があるが、割愛し、茶席および全もてなしが終了する。
時間にすると4時間程か。色々割愛したので本来はもう少しかかるかと思われる。個々は簡素ながら、様々な食事を器共々様々に楽しむという、時間を使ったもてなし。正に究極のサーヴィス(フルコース接待)か。
お点前さん以外は初体験であったが、皆興味深く楽しめた。これは面白い。料理も難しいもの、高価なものは無いので、意外と気軽に出来そうである。今回はお点前さんの準備に甘えたが、持ち寄り等でも面白いかもしれない。
問題点としては、長時間の正座であろうか。正座に強い私でも結構足にきた。本来なら途中で庭に出て足をのばす機会があるらしいので、そうしたことも考慮すべきかと思われた。
町家・古家の価値再認識
安易な改変・破壊やめよう
とまれ、普段の交流にも使えそうなことがわかった。場所としては、町家型の所謂「鰻の寝床」式の間取りで、庭に面した居間(客間)と待合用の1室があり、共に畳敷きであれば問題ないか。
出来れば、居室を通らず庭に出られ、そこに床几等の腰掛けが置ければ、より本式となる。
そう考えると、やはり畳に床の間や庭、そして町家・古家の価値を思わされる。それらには思う以上の価値や機能性が秘められており、伊達に日本伝統的都市住居1300年の殿(しんがり)を務めている訳ではなかった。
メンテの手間や椅子暮し等の為にフローリングにしたり、庭を潰して部屋を広げたりする等の安易な改変は極力やめるべきである。大金を使って工事をするより、現在では意外と簡易に対処可能であることも多い。
業者の甘言に乗らず、広い心で考える。畳部屋や庭を失うと、元に戻すことは難しい。
少々話が逸れたが、中々良い経験だった。更に用意を整え、是非また行いたいと思う。皆さんにも、町家・古家に限らず畳部屋があり、お点前が可能か若しくはそれが可能な人が身近にいれば、是非お勧めしたいと思う。